保育・教育の現場での生き物飼育方法講座

京都生き物文化研究所ブログ−保育園・幼稚園など幼児教育の現場での生き物飼育に役立つ情報を提供します。

メダカ飼育の教育的意義を考える

ここでメダカとしたのは、一番飼育するのに都合がいいからです。入手しやすい、飼いやすい、設備いらない、うまくすれば繁殖も見られる、特に保護しなければ爆発的に増えて殺処分しなければならないこともない、といいことづくめです。

 

実は中学受験でもあまりメダカの飼育については突っ込んだ問題は出ません。基本的に飼育する器具の設問と、卵やヒレの位置を書かせる、という問題が主となります。器具関係では水草とメダカの関係を聞く、とかそういう感じになるかと思います。ある高偏差値中学校ではメダカの背ビレと卵について質問したものがありました。これには感心しました。つまりメダカがダツ目であることを示す特徴を聞いてきたからです。

 

でもそうしたことを園児に聞いても「???」となるだけでしょう。園児には何を教えるべきなのか。こういうことは保育士や幼稚園教諭の方が専門家なので私が喋々することでもないのですが、素人なりの見解を示せば、人間との違いを実感することに意義があるのではないか、と考えています。

 

大学で一般教養科目(最近ではリベラルアーツとかっこつけて呼びます)の歴史学を講義する場合、学生に身につけてほしいと思っているのは、他者を知ることで自分を相対化する、という視点です。自分とは違う世界に生きている、生きていた人々を知ることで、今自分が生きている価値観が絶対のものではないことを知る、というのは非常に大きなことです。

 

メダカを飼育する体験を通じて生きている、という共通点を見出し、命の大切さを知る、ということも重要ですが、もう一つ、メダカと人間の違いを知ることで、メダカのために何をしてあげられるのか、ということを知ることができます。これを幼少のうちに身につける、というのは非常に貴重な体験と言えるのではないでしょうか。

 

メダカと我々の違いの最大のポイントは、彼らが水中生活をする変温動物である、ということです。まず水中は比熱が大きく、熱しにくく冷めにくいという側面を持っています。それと関連して変温動物である、ということも重要です。変温動物は自分で体温を調節できないので、管理者が体温を管理してやることが必要になります。園児にはその管理は無理であっても、保育者がそのことを伝えながら世話をすれば、園児にも伝わるかもしれません。

 

もう一つは、水槽というのが限られた容量しかなく、排泄物や食べ残しもそこに蓄積する、ということが挙げられます。空気も管理者が気を使う必要がありますし、排泄物や食べ残しなども管理者が掃除しないと、自然にはなくなりません。それを伝えながら、毎日のコップ一杯の水換えをしてあげるのもいい体験になるのではないでしょうか。

 

生物学的な知識と生命の尊厳という道徳的な知識というのは、相対立するものではなく、相互に関連しあうものであると思います。

 

変温動物と水中生活をする動物、という面ではザリガニなどもその範疇に入るでしょう。メダカの場合はそれに加えて絶滅危惧種、ザリガニの場合は侵略的外来生物ワースト100という側面からの説明を行うのはまだ早いかな、と思いますが、男の子の中にはめちゃくちゃ詳しいのもいます。そういう子ども向けにはこういう説明も入れてあげるといいかも、です。